これほど脳が活性化する方法を見たことがない…脳研究者が驚いた

【「音読」が最も脳を活性化させる】

私はこれまで数百にものぼる実験を行い、脳が活性化する様子を研究してきました。

その中で、最も強く脳が活性化したのが「音読」でした。現在においても、私は音読以上に脳を活性化させる実験結果は見たことがありません。

音読を行うと、脳の神経細胞が一斉に活性化し、脳の血流がどんどん高まって、大脳全体の70パーセント以上が活動しはじめることがわかっています。

 

【言語を読んでいるときに脳内で起こっていること】

言語を読んでいるとき、脳内では何が起こるのでしょうか。

まず、私たちが文章を黙読すると、目にしたものを調べるための「視覚野」がある後頭葉が働きはじめます。次に、目を動かす指令を出す「前頭眼野」が働いて文字を目でとらえ、言葉の意味を理解しようと働く「ウェルニッケ野」が意味をつかもうとします。

そして、「脳全体の司令塔」である前頭前野が働き、読んだ文章を理解し、記憶し、思考するという活動が行われるのです。

このとき面白いことに、聞こえた音を調べる「聴覚野」という脳の部位も働いていることがわかっています。つまり、私たちは文章を黙読しているとき、心の中で声に出して読み、その自分の声を聞いているということです。

 

【1日10~15分の音読で記憶力20%UP】

黙読するだけでも、脳の広範囲が働いていることがわかりますが、これが音読になると、働く範囲がさらに広く、強く活性化することがわかっています。

中でも特に強く反応するのが、「頭の良し悪しを握るカギ」である前頭前野です。

脳全体の血流が高まり、活性化した状態にできるのですから、脳の「準備体操」として音読は最適であるといえるでしょう。実際に、1日10~15分の音読を行うと記憶力が20%アップするという研究もあります。

小さなお子さんが自分で文字を読めるようになると、声に出して絵本を読んでいる姿をよく目にしますね。実は、あれが非常によい前頭前野のトレーニングになっているのです。

 

【読書は脳の構造自体を変化させる】

学童期になったら勉強の前に教科書を音読する。あるいは、ちょっと難しい文章を理解したいときには意識的に声に出して読むことをおすすめします。記憶力や理解力がアップして、学習効果を高めることが期待できます。

とはいえ、なんでもかんでも音読をするのは、あまり現実的ではありません。当然ながら、純粋に読書を楽しむときには静かに黙読するのが通常です。こうした普通の読書であっても、子どもの脳にとてもよい影響のあることが科学的に明らかになっています。

私の研究では、読書習慣がある子どもたちの脳画像や言語発達に関するデータを分析したところ、言語発達や脳の構造に次のような影響を与えることがわかりました。

脳の神経細胞同士をつなぐ神経線維である「弓状束きゅうじょうそく」は、言葉との関係が深いといわれていますが、読書習慣のある子どもは、その構造がよりよく発達していることが確認できたのです。

読書は脳の構造自体を変化させる。その事実に、脳の専門家である私たちでさえも大きな衝撃を受けました。

 

【読書時間が長くなるほど偏差値も高くなる傾向】

また、読書習慣は、子どもの成績を向上させることもわかっています。

次のグラフは、2017年(平成29年)の小学5年生から中学3年生までの子ども約4万人の「平日の1日当たりの読書時間」と「4教科(国語、算数/数学、理科、社会)の平均偏差値」をまとめたものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読書を「まったくしない」が最も低く、そこから、読書時間が長くなるほど偏差値が高くなっている傾向が明らかです。

【「まとまり読み」ができるようになることが大切】

読書習慣のある子どもたちは、小学校中学年から「まとまり読み」ができるようになります。

文字を一文字ずつ追うのではなく、文字を意味のあるまとまりとしてとらえ、効率的かつ、スピーディに読み進めるようになるのです。

この段階に入った子どもは、文章を読むことがまったくストレスになりません。そのため、自分で本をどんどん読み、さらに知識を積み上げていくという、“理想的なループ”に入ります。

 

【1日30分の読書週間は2時間の学習に匹敵】

この4万人の子どもを調査・分析した結果から、さらに次のようなこともわかりました。

・「勉強2時間以上で読書をまったくしない」群の平均偏差値は50.4

・「勉強2時間以上で読書を1日10~30分する」群の平均偏差値は53.6

・「勉強30分~2時間で読書を1日10~30分する」群の平均偏差値は51.3

つまり、同じ勉強時間でも、読書を1日10~30分するだけで偏差値は「3」上がる。さらに、1日2時間以上勉強しても、まったく読書をしていないと、それ以下の勉強時間の子どもより成績が悪くなる……という驚きの結果が出ています。

ここから、子どもには毎日30分程度の読書習慣をつけることが望ましい。すると、2時間の学習に匹敵する成績アップ効果が期待できるといえるのです。

 

【「読む習慣」をつけることが大事】

家庭で読書習慣をつけるためには、少しでも興味を持つ本をたくさん読むとよいでしょう。

幼少期の脳発達にとって重要なのは、「何を読むか」よりも「読む習慣をつけること」です。

もしもヒーローもののテレビシリーズに夢中なら、その関連本からはじめたり、大好きなアニメの原作本を買って読むのもよいでしょう。

好きなジャンルであれば、たとえわからない文字があっても、一生懸命に読もうとします。それを続けていくうちに脳が慣れてきて、小学校中学年ぐらいになると「まとまり読み」ができるようになるはずです。

 

【漫画でも「何も読まないよりはまし」】

ところで、読書に関して「漫画でもよいのでしょうか?」という質問をよく受けます。「何も読まないよりはまし」と、私としては答えています。

漫画を読んでいるときの脳活動も測定したことがありますが、前頭前野は活字の本を読むときほどには活性化していませんでした。それでも、文字が大好きな脳にとっては、漫画の吹き出しの中の文字を読むことで、通常より活性化する反応が見られました。

とりわけ、物語性のある漫画を夢中になって読むのは、脳にとって悪いことではありません。「いろいろな言葉の意味を漫画で覚えた」というのもよくあるケースです。

 

【幼少期は「読み聞かせ」で心が育つ】

幼少期の場合は、家庭での「読み聞かせ」が読書習慣となります。

【本を読む喜び、学ぶ楽しさを身につける】

一方で、「頭の良し悪し」に関わる前頭前野については、読み聞かせをしている間はあまり働いていませんでした。

そう聞いて、少し残念な気持ちになるかもしれません。しかし、それは少々早計というもの。

なぜなら、たくさん読み聞かせをすれば、自然な文脈で言葉を学習し、情操や感情表現を豊かに発達させていくからです。

それだけでなく、本を読む喜び、学ぶ楽しさも身につけていきます。

 

【親子で読み聞かせの役割をチェンジしてみよう】

そうした体験が強力なモチベーションとなって、成長するにしたがって自ら本を読むようになり、「何も言わなくても自分から勉強する子ども」へと成長していくでしょう。

自分で文字を読めるようになったら、ぜひ読み聞かせの役割を親御さんと交代してください。今度は子どもが音読をして、親御さんがそれを聞く側に回るのです。

音読によって子どもの前頭前野が強く活性化し、子どもはさらに「頭のいい子」に成長していくことが期待できます。

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川島 隆太(かわしま・りゅうた)

東北大学加齢医学研究所教授

1959年千葉県生まれ。89年東北大学大学院医学研究科修了(医学博士)。脳の機能を調べる「脳機能イメージング研究」の第一人者。ニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修ほか、『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)、『オンライン脳』(アスコム)など著書多数。

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